雪崩式ブログ

雪崩式総裁・コマの日記です。

ビジネスとしてのプロレス

 こないだ沖縄プロレスの某選手と電話で話したとき、「プロレスでいかに金を生んでいくか」という話題になりました(これはご本人もmixi日記で触れてるのですが友人限定公開でしたのでお名前は伏せます)。

 彼の考えは「お客さんに良いものを見せて、相応のお金をお客さんから頂戴することで団体が潤うというのが一番大事」というものです。これは興行のあり方としては基本中の基本であり、ファンの皆様にTシャツを買っていただくことで飯を食ってる僕としても大筋では同意です。

 なんやそれ。当たり前やがな。と思われるかもしれませんが、プロレスには(というか興行モノは大概そうなんですが)他にもお金を生む雛形がありまして、来られたお客さんから直接お金を頂く以外にも、スポンサーをリングに上げたりスポンサーの名前をリングのマットやふんどしやコーナーパッドに入れたりすることでスポンサーからお金や商品を得たり、試合を録画したものをDVD等に納めて売ったりして二次使用することで収益を生んだり、広い会場だと飲食店ブースをロビーなどに入れてそこから売り上げの一部を徴収したりすることもあります。メジャー団体になればTV局と組んで放映権料が発生することもありますし、「売り興行」といって興行権自体をまるまる買い取ってもらうことで客の入りに関わらず確実に現金を得るやり方もあります。

 今日、福岡の唐人町商店街というところでDDTが商店街プロレスを行いました。インターネット動画配信システム「USTREAM」(以下、UST)を用いて生中継をしていたので仕事の合間に観ていたんですが、これがビジネスモデルとして非常に興味深いものでした。

 商店街でプロレスをやりたい、というのを実現させるには、商店街サイドにこういうメリットがありますよーというプレゼンが必要になります。乱闘によってお客さんや店舗に被害が出るデメリットがあるわけですから、商店主たちを説得させる労力は並大抵ではなかったでしょうし、実際今回のケースでも3店舗が反対していたそうです。

 普通は「集客数アップ」とか「観光客誘致」とか、その辺に落ち着くと思います。実際に僕が知ってる限りでは、よくある無料興行の「お祭りプロレス」や「競輪場・競艇場プロレス」はそこが売りでした。

 ところが今回の唐人町のケースではそこから一歩踏み込んで、「各チームが5000円ずつ所持し、商店街内で購入したものであれば公認凶器として認める」というルールが採用されました。これによってプロレスが客寄せパンダになるだけではなく、試合の攻防によってそれぞれの店舗がクローズアップされる仕掛けを作りました。加えて「観客が商店街内で購入したものであればそれも公認凶器として認める」というルールを採用したことにより、観客の購買モチベーションも喚起しました。(実際にあの混乱の中で買った人がどれだけいるかには疑問が残りますが)

 面白いのはその後の反省会で、大社長が試合中に水羊羹を食べた和菓子屋の主人が「なんで水羊羹なんだ。うちはドラ焼きが売りなんだ」と怒ったというエピソードが出たことから、あれよあれよと言う間にその和菓子屋「黒田武士本舗」がクローズアップされまくり、最終的に「みんなでドラ焼きを買って明日の博多スターレーン大会を観にいこう」という結論にまで至りました。

 今回の商店街プロレス、本来は明日の興行のプロモーションとして行われたものらしいんです(だからDDTも無償で試合をしたみたいです)が、結果的にそれ以上の結果を残した。その場ではお金にならなくても、先に繋がるものは得た。唐人町商店街の皆さんも「次回も是非!」と歓迎ムードだったといいますし、今回のケースがあったから唐人町という街の名前を知ったプロレスファンは大勢いると思います。僕含め。

 で、冒頭の「プロレスビジネスの基本中の基本」の話に戻ります。試合を観たお客さんに試合内容で感動していただくことでお客さんから直接お金を頂戴する、というビジネスモデルは、プロレスラー目線だと思います。試合内容に自信があるから、そしてそれを観てもらいたいから言えることだと思います。その観点から言えば商店街プロレスのビジネスモデルは邪道です。第一、リングもマットも無いところでプロレスの持ち味が100%出せるわけがないですし、昔気質のファンからすれば茶番ととらえられてもおかしくはないと思います。

 ただ、プロレスというソフトの持つポテンシャルを、「客が払う入場料とグッズ代」という枠に納めてしまうのが、いちプロレスファンとして非常に惜しい。かといってスポンサーをつけるというシステムも、ファンの方向を向いていないと思います。いつだったかの某団体のビッグマッチでは、全試合にいちいちスポンサーが付いてたせいで毎回毎回スポンサーがリングに上がって目録渡したり花束渡したりでテンポ最悪で辟易しました。ファンも楽しんで、時には悪ノリしながら試合経過を見守り、それが結果的にお金に結びつく、という意味で、今回の商店街プロレスは非常に面白いモデルケースになったと思います。

 一つ懸念事項があるとすれば、プロモーションの為のワンマッチイベントだったからこそ今回のケースは成り立ったということです。そこを上っ面だけ真似てプロレスを招致しようとする商店街がもしあれば、やはりプロレス団体側のメリットというのも考えなければならないでしょう。商店街がお金を出してもいいでしょうし、行政も巻き込んで助成金を引っ張ってきてそれをギャランティに充てるやり方もあるかもしれません。ともあれ、もはやプロレスがかつてのプロレスの輝きを失ってしまった以上、別の部分で新しい輝きを生み出さなければいけないわけで、その礎の一つを垣間見た気がする一日でした。

 というわけで「以下、UST」と書きながらそれ以降全くUSTに触れなかったことはそっとしておいてくださいおしまい。